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Channel: バルカローレの「歌詞を訳しました」
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第148回 サイモン&ガーファンクル Fakin It

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 京都市北区の薬師山病院まで桜花道さん(林さん)を見舞いに行ったのは、三年前の春でした。2009年4月25日。ホスピスに移ったという知らせが入った週の土曜日、朝一番で飛んで行きました。ベッドの脇の机にノートパソコンが置いてあって、前川清と石川さゆりの歌を二人で聴き、ときどきねだると桜花道さんも歌ってくれました。ジム通いの話も記憶に強く残っています。一回で10km走っていたというから、そこに至るまでには相当な努力があったと思います。
 病院の近くならここに行くといいですよ、とすすめられたのが「大こう本店」という漬け物屋さんと、あぶり餅で有名な今宮神社でした。雨のなか小一時間かけて到着。そのとき歩きながら聴いていたのがサイモン&ガーファンクルの『Bookends』だったので、今でも "Fakin' It" や "Punky's Dilemma" を耳にすると、私は今宮神社の雨に濡れた石畳や彼の顔を思い出すのです。
 桜花道さんはそれから四日後に亡くなりました。

 "Fakin' It" は1967年8月にシングルとして発売され、翌年のアルバム『Bookends』に収録されました。言うまでもないことですが歌詞の内容と私の体験に関係はありません。

Simon & Garfunkel


「うまくやっているふり」
(ポール・サイモン作)

彼女が行くと言えば 彼女は構わず行ってしまう
彼女が留まると言うのなら 彼女はここに留まる
あの子はやりたいことをやるし
自分のやりたいことがわかっている
ところが僕はうまくやっているふりをしてるだけ
よくわかってる
本当は何もできてやしないのは

僕はひと言で言ってとても怪しい男だよ
庭を散歩するだけで もうくたくた
そこらに落ちてるつる草に足をからませながら
ジョークの落ちをひねり出そうとしているのさ
誤魔化してきただけの男だ
本当は何もやれはしない
本当に何も

近づくと危険かって?
いやいや そんなことはない
黙って僕に寄りかかればいいよ
近所の人たちには時間を惜しまず、誠意を尽くして
接しているけれど
実際はその場を取り繕っているだけ
本当は何もやれはしない
取り繕っているという感覚をどうしても振り払えない

この世に生を受ける前は
僕は仕立屋だったに違いない
そら見てごらん

(おはようございます、レイチさん。
今日も一日忙しくなりそうですね?)

仕立屋の顔と手だ
実際僕は仕立屋の顔と手そのものだ
でも僕は
自分がいつも偽って、誤魔化していることを知っている
本当は何もやれはしない
取り繕っているという感覚をどうしても振り払えない
僕は自分が誤魔化していることを知っている
本当は何もできてやしない


Fakin' It
(Paul Simon)

When she goes, she’s gone
If she stays, she stays here
The girl does what she wants to do
She knows what she wants to do
And I know I’m fakin’ it
I’m not really makin’ it

I’m such a dubious soul
And a walk in the garden
Wears me down
Tangled in the fallen vines
Pickin’ up the punch lines
I’ve just been fakin’ it
Not really makin’ it
No, no, no

Is there any danger?
No, no, not really
Just lean on me
Takin’ time to treat
Your friendly neighbors honestly
I’ve just been fakin’ it, fakin’ it
Not really makin’ it
This feeling of fakin’ it
I still haven’t shaken it

Prior to this lifetime
I surely was a tailor
Look at me
(“Good morning, Mr. Leitch
Have you had a busy day?”)
I own the tailor’s face and hands
I am the tailor’s face and hands
I know I’m fakin’ it, fakin’ it
I’m not really makin’ it
This feeling of fakin’ it
I still haven’t shaken it, shaken it
I know I’m fakin’ it
I’m not really makin’ it


第149回 プロコル・ハルム Homburg

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 Chiakiさんからのリクエストです。1967年10月に発売されたプロコル・ハルムの2枚目のシングル、"Homburg" です。Chiakiさん、ありがとうございました。残りの曲はもう少しお待ち下さい。

 Homburg とはホンブルグ・ハットと呼ばれる帽子のこと。翻訳小説においては昔から「ホンブルグ帽」と訳されることが多いので、私の訳もそれに則りました。いわゆるソフト帽とは異なり、写真のようにつばが巻き上がっているのが特徴です。今回調べて初めて知ったことですけれど。
 歌詞に「The mirror on reflection」という言葉が出て来ます。reflection は「鏡に映った姿」という意味。そして「on reflection」は成句で、「よくよく考えてみると」という意味です。ですからこの表現は地口の一種と思われます。訳し方が適切でなかった場合はご指摘下さい。

 また映画の話になりますが、ピアノのメロディは『血とバラ』(1960年)だとか古いヨーロッパの映画の音楽を思い起こさせます。

149homburg1_2


「ホンブルグ帽」
(ゲイリー・ブルッカー、キース・リード作)

何ヶ国語も言葉を操る君のお得意先の友人だが
彼女は今し方荷物をまとめ 飛ぶように逃げた
吸い殻でいっぱいの灰皿と
口紅のあとの付いたくしゃくしゃのベッドだけを残して
考えてみたら
彼女が見つけて来た床板は下に落ちてしまったし
天井が高すぎたから
鏡は壁をよじ登って行ったんだね

(*)君のズボンの裾だけれどちょっと汚いよ
   靴の紐だって間違って結んである
   ともかくホンブルグ帽は脱いだ方がいい
   君の外套はあまりに長すぎるから

市場が開かれる広場に
時計台が立っている
時計台は時間を待つ
あの者たちは時計の針を過去に戻そうとする
そして会合の時間になれば
彼らは彼ら自身と
果敢にも時を告げようとするすべての愚か者を飲み込み
自滅するだろう
太陽と月はこなごなになり
道標はもはや何物をも示さない

(* 繰り返し)

(* 繰り返し)


Homburg
(Gary Brooker, Keith Reid)

Your multilingual business friend
has packed her bags and fled
Leaving only ash-filled ashtrays
and the lipsticked unmade bed
The mirror on reflection
has climbed back upon the wall
for the floor she found descended
and the ceiling was too tall

(*) Your trouser cuffs are dirty
     and your shoes are laced up wrong
     you'd better take off your homburg
     'cos your overcoat is too long

The town clock in the market square
stands waiting for the hour
when its hands they both turn backwards
and on meeting will devour
both themselves and also any fool
who dares to tell the time
And the sun and moon will shatter
and the signposts cease to sign

(* Repeat)

(* Repeat)

第150回 エルトン・ジョン Bennie and the Jets

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 エルトン・ジョンと作詞家のバーニー・トーピンは、流行の真っ只中である1973年にグラムロックへの讃歌を一曲書きました。"Bennie and the Jets"。

 好みに偏りのある私ですが、思春期というものをこれほど見事に表した歌を私はほかに知りません。そして歌詞には「性の区別の危うさ」が主題のひとつとして盛り込まれています。
 読めばわかるとおり、語り手のメンタリティーは男の子というよりは女の子に近いものがあります。雑誌を毎号買って自分の好きなバンドのメンバーの衣装をチェックする健気さは、少女にこそ似つかわしい。ただ最後になって「両親と僕は戦うんだ。どっちが正しくて間違ってるか白黒はっきりさせるんだ」と力んだりするので、頭でっかちな男の子であることはばれてしまいます。
 バンドのフロントをつとめる Bennie についても面白い点があります。歌詞の中では「she」で受けていますが、だいたい「ベニー」というのは男の名前じゃないですか。それにふつうモヘアのスーツというのは男が着るものだし。

 何はともあれ素晴らしい歌です。
 アメリカの音楽番組『ソウル・トレイン』に出演したときの映像です。
 Elton John - Bennie and the Jets (SOUL TRAIN)

Elton John - GOODBYE YELLOW BRICK ROAD


「ベニー&ザ・ジェッツ」
(エルトン・ジョン、バーニー・トーピン作)

なあみんな
体をシェイクしてゆるめるんだ
スポットライトが何かを照らしてるだろ
そこにいるのは天気だって変えちまうことで有名な奴ら
今宵の饗宴 盛大にもてなすよ
だからまだそこにいてくれ
君らはエレクトリック・ミュージックを耳にする
極めつきの音の壁(ウォール・オブ・サウンド)をね

ねえキャンディとロニー
彼らをもう見たか?
全員ふぬけのようにぼーっとしてるけどさ
あいつらが、ベ、ベ、ベ、ベニー&ザ・ジェッツだ
格好は変てこかもしれないけど、素晴らしいバンドだよ
ああ ベニーはなんったって最高だ
電飾のブーツにモヘアのスーツ
それが彼女のスタイルだって雑誌に書いてあった
ベ、ベ、ベ、ベニー&ザ・ジェッツ

いいかい みんな
あの不誠実のかたまりのような連中にプラグを差し込んじまえ
たぶん彼らは目が見えないだけさ
ベニーなら彼らを軒並み若返らせる
僕らは生き延びなければならない そして自ら出向いて行こう
町の雑踏の中へ
その場所は僕らが親たちと戦う場所
どちらが正しくてどちらが間違っているか見極めるために


Bennie and the Jets
(Elton John, Bernie Taupin)

Hey kids, shake it loose together
The spotlight's hitting something
That's been known to change the weather
We'll kill the fatted calf tonight
So stick around
You're gonna hear electric music
Solid walls of sound

Say, Candy and Ronnie, have you seen them yet
But they're so spaced out, B-B-B-Bennie and the Jets
Oh but they're weird and they're wonderful
Oh Bennie she's really keen
She's got electric boots a mohair suit
You know I read it in a magazine
B-B-B-Bennie and the Jets
Hey kids, plug into the faithless
Maybe they're blinded
But Bennie makes them ageless
We shall survive, let us take ourselves along
Where we fight our parents out in the streets
To find who's right and who's wrong

第151回 ザ・ビートニクス Totall Recall

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「好きな女性にプレゼントしたいので訳してもらえますか?」
 というお便りを頂きました。
 リクエストして下さったのはグラフィック・デザイナーの Y様です(匿名をご希望でした)。高橋幸宏さんと鈴木慶一さんのユニット、ザ・ビートニクスの "Total Recall" の歌詞をこのたび英語から日本語に訳しました。セカンド・アルバム『EXITENTIALIST A G0 G0 -ビートで行こう-』(1987年)に収められている作品です。

 「微細なことまで想起できる、完全記憶能力」(リーダーズ英和辞典)という意味を持つ題名の「total recall」ですが、それが歌詞の内容とどう結びつくか正直言って私には分かり兼ねました。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画『トータル・リコール』の公開は1990年ですし、フィリップ・K・ディックの原作の短篇は題名が異なりますので、やはり件の映画とも関係はありません。分かる方いらっしゃいますか?
 メインに歌っているのが高橋幸宏さん(サディスティック・ミカ・バンド、YMO)ということあって、語り手が通勤途中に通りかかる路地裏は、高橋さんが生まれ育った東京よりもむしろロンドンの感じが強いです。さらに私はスモール・フェイセズの「イチクー・パーク」を思い出しました。

 Yさん、またのリクエストをお待ちしております。どしどしお寄せ下さいね。


 《追記》 2012/11/09

 リクエストを下さったYさんご本人からお便りを頂き、私の訳文にいくつか誤りがあることがわかりました。訂正しました。プレゼント用のリクエストでしたので、もし機会がありましたらお友だちの方によろしくお伝え下さい。
 歌詞の「まるかっこ」の部分は、鈴木慶一さんの合いの手の台詞だったんですね。気づかなくて面目なかったです。

The Beatniks - EXITENTIALIST A GO GO


「トータル・リコール」
(作詞:ジャイルズ・デューク、生田朗  作曲:ザ・ビートニクス)

ちょうど昨日のこと
町なかを歩いていたら
雨が矢庭に降り出したので
そこにいた汚い身なりの老人をつかまえた
(とことん着古した服だったね)
人生はそよ風のようなもの
僕は回顧する
何一つ成し遂げられはしなかったんだなって
(その通りだよ)
だから僕は日がな一日
信号が青に変わるのを待ち続けていた

世の中で起こっていることの意味を知るには
僕はあまりに若すぎた
しかしそこは
僕らが現実に暮らしている世界にほかならなかった

僕はいつも目をそらそうとする
狭い路地裏は妖精たちでいっぱい
誰かが妖精のノームを追い払っているみたいだね
今日も僕は仕事に向かう途中

子供の頃はいろいろひどいことをやったけれど
僕の頭の中には想像力のかけらもなかった
(想像力ってやつはいつも人を落ち込ませる)
そして今運命の手が
僕を驚きの世界に連れ去る
(そう、連れ去られるのさ)
一日中ずっと 信号が変わるのを待っていた

世の中で起こっていることの意味を知るには
僕はあまりに若すぎた
しかしそこは
僕らが現実に暮らしている世界にほかならなかった

僕はいつも目をそらそうとする
妖精のノームたちは
路地をねぐらにするつもりみたいだね
悪いけど今日も僕は仕事に向かう途中

僕はいつも妖精たちの住む路地裏から
目をそらそうとする
彼らだって僕のことは見ちゃいないんだけどね
今日も僕は仕事に向かう途中

僕はいつも目をそらそうとする
路地裏にたむろする酔っぱらいたち
そいつらを追い払えと誰かが言っている
そろそろ僕も休暇に出かけよう


※原詞は割愛します

第152回 ザ・フーターズ Karla with a K

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 大変お待たせ致しました。
 リクエストを頂いたのが9月の上旬でしたから、いくら何でも間が空きすぎましたがもう大丈夫です。今日から以前のようなペースに戻れるかと思います。
 ザ・フーターズの "Karla with a K"。「blueswave's MIND DROPS」を管理されているblueswave様から頂いたリクエストです。彼らの3枚目のアルバム『One Way Home』(1987年)に収録された曲です。ありがとうございました。

 タイトルの意味が分からないとお話されていたのでご説明します。
 「Karla」は語り手の恋人を指しますが、通常カーラは「Carla」と綴ります。つまりタイトルは「Kで始まるカーラ」という意味です。
 ハリケーンが迫っているときに語り手は恋人に向かってこう言います。
「あのハリケーンもさ、ついでに君と同じ名前で呼んだらいい。でも呼ぶときはKから始まるカーラじゃなきゃ駄目だぜ」

 『赤毛のアン』第三章でアン・シャーリーがマリラに対し、
「私としてはコーデリアという名前が素敵だと思うけれど、もし私のことをアンと呼んで下さるのなら、どうか "e" のついた綴りのアン(Anne)で呼んで下さい」
 と言う場面があります。あれをちょっと思い出させます。

 「blueswave's MIND DROPS」
 私が好きな変な曲 (2012年9月8日)

The Hooters - ONE WAY HOME


「Kで始まるカーラ」
(ザ・フーターズ作)

自由に浮き沈みはつきもの
人気(ひとけ)のない町の通りをぐるぐると歩き続ける
僕は仲間を見つけたかったんだ
話しかけてれる人を

僕はまったくのひとりぼっち
風が家の中まで吹きつける
でも僕らはいつか仲間を見つけ出そう
過ぎ去った日々を思い出して
泣いてばかりいちゃいけない
やればきっとうまく行くさ
そうだろ、カーラ?

ハリケーンとキャデラックが
振り向きもせずに君を跳ね飛ばす
救いはいったいどこで得られるのか
僕を慰めてくれる優しいやすらぎは

僕はまったくのひとりぼっち
風が家の中まで吹きつける
でも僕らはいつか仲間を見つけ出そう
過ぎ去った日々を思い出して
泣いてばかりいちゃいけない
やればきっとうまく行くさ
そうだろ、カーラ?

(*)どんなに強く風が吹き荒れようと
   君は僕のもの
   山々が青空に包まれるのと同じように
   瞼を閉じたとき
   僕に見えるのは君だけだ
   ねえ、カーラ
   僕らはやればきっとうまく行くさ

父なる川が水かさを増し
目の周りのくまを洗い流してくれる
ハリケーンはまだ進んでいるけれど
ついでに君はそのハリケーンもカーラと呼んだらいい
呼ぶときは Kで始まるカーラ(Karla)でね

(* 繰り返し)

やればきっとうまく行く
そうだろ、カーラ?


Karla with a K
(The Hooters)

Freedom has its ups and downs
Walk the streets of lonesome town
Try to find some company
Somebody who will talk to me

Well I'm here all alone
A wind blows home
We'll find it someday
There's no reason to cry
For days gone by
Oh, Karla, we can make it if we try

Hurricanes and Cadillacs
They run you down and don't look back
Oh where can my salvation be
A tender touch to comfort me

But I'm here all alone
A wind blows home
We'll find it someday
There's no reason to cry
For days gone by
Oh, Karla, we can make it if we try

(*) No matter how the wind may blow
     You belong to me
     Like the mountains to the sky
     And you know when I close my eyes
     You're the one I see
     Oh, Karla, we can make it if we try

Old man river's on the rise
Wash the circles from my eyes
Hurricane is on its way
You can call it Karla
Karla with a K

(* Repeat)

Oh, Karla, we can make it if we try
Come on, Karla, we can make it if we try
Oh, Karla, we can make it if we try

第153回 クロスビー、スティルス&ナッシュ Helplessly Hoping

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 クロスビー、スティルス&ナッシュの曲を訳すのは、"Wooden Ships" に続いて2回目です。"Helplessly Hoping"(1969年)。スティーヴン・スティルスの作詞作曲。以前プロコル・ハルムのリクエストを下さったChiakiさんからのリクエストです。ありがとうございました。
 私の力不足のせいで、最後まで文法解釈上自信がないまま訳した箇所がいくつかあります。Chiakiさんすみません。皆様へ。誤りが見つかりましたらご一報下さい。よろしくお願いします。

 題名は邦題と同じ「どうにもならない望み」にしました。すっきりしてなかなかいい邦題だと思います。今回使わせて頂きました。
 ではあるけれどグレアム・ナッシュの清冷な "Lady of the Island" が「島の女」と訳されているのはちょっとなーと思います。三沢あけみの歌じゃないんだから。泣けば揺れます、サネン花。長い黒髪、島むすめ。島むすめよ・・・。グレアム・ナッシュのあの歌はジョニ・ミッチェルの『Ladies of the Canyon』(邦題『レディズ・オブ・ザ・キャニオン』)と対になっているので、思い切ってカタカナ表記にしてもいいかも知れません。

Crosby, Stills & Nash


「どうにもならない望み」
(スティーヴン・スティルス作)

どうにもならない望みを抱えながら
お道化者のハーレクインはすぐそばをうろついている
彼女の言葉を待つ間
高貴な魂を垣間見た彼ははっと息をのんだ
彼は駆け出した
空を飛ぶことを一心に望んだが
さよならの音を耳にして けつまずいたら
それっきり

何も言わずに見つめながら
窓によりかかって待っている
中の部屋が空っぽなのをいぶかしみ
心ない彼は彼女の悪夢にずかずかと入り込むが
ふと心配になる
俺はさよならの言葉を聞いたのだろうか?
いや挨拶の言葉だって聞いたかどうかあやしいかも

彼らは一人の人間
彼らはこの世で二人きり
彼らは三人いつもいっしょ
そして彼らはお互いのために

階段のそばに立つとき 君は何かを見るだろう
それによって君は思い知らされる
ごたごたに代償はつき物だと
愛は嘘をつかないが
ぐずぐずとためらっている女の愛は自由気ままだ
そして愛は告げる
彼女は迷子になっていると
ハローという言葉さえのどにひっかかって
声にならない

彼らは一人の人間
彼らはこの世で二人きり
彼らは三人いつもいっしょ
そして彼らはお互いのために


Helplessly Hoping
(Stephen Stills)

Helplessly hoping, her harlequin hovers nearby
Awaiting a word
Gasping at glimpses of gentle true spirit
He runs, wishing he could fly.
Only to trip at the sound of good-bye.

Wordlessly watching, he waits by the window
And wonders at the empty place inside
Heartlessly helping himself to her bad dreams
He worries, did he hear a good-bye?
Or even hello?

They are one person.
They are two alone.
They are three together.
They are for each other.

Stand by the stairway, you'll see something
Certain to tell you confusion has its cost.
Love isn't lying, it's loose in a lady who lingers,
Saying she is lost, and choking on hello.

They are one person.
They are two alone.
They are three together.
They are for each other.

第151回の記事に追記しました

第154回 ジェームズ・コットン・バンド One More Mile

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 「Ain't Nothing But a Blues」のUtamさんからのリクエストです。遅くなりましてすみません。ぜひまたお便り下さい。
 マディ・ウォーターズのバンドでハーモニカ奏者として活躍していたジェームズ・コットンが70年代に発表した曲、"One More Mile" を訳しました。と言っても古いスタンダード曲ですからそれより以前から歌っていたと思いますが。ジェームズ・コットン・バンド名義で発表した『100% Cotton』(1974年)に収録されています。ギターはのちにブルーズ・ブラザーズ・バンドに参加することになるマット・マーフィー。
 映画『ブルーズ・ブラザーズ』でマット・マーフィーは奥さんのアレサ・フランクリンに「あんたが私にしようとしてること、よく考えてご覧なさいよ」("Think")と詰め寄られても、ひるまずお店から出て行ってしまうギタリスト役として出ていました。なかなか切ないシーンでしたが、当のアレサ本人に「フリーダム! フリーダム!」などと叫ばれたらそりゃバンド稼業に戻ってしまうかもしれない。

The James Cotton Band - 100% COTTON


「あと1マイル」
(作者不明)

地獄のようにきつい旅だったが
もう泣かなくていいかと思うとほっとするよ
頼みがある
灯りを絶やさず燃やし続けてほしい
君の心の奥底が俺にもわかるように
何、あと1マイル行くだけさ
あと1マイル
地獄のようにきつい旅だったが
もう泣いたりする気遣いはない

大きな賭けに出たが 俺は間違いを犯した
有り金を間違った方に賭けてしまったらしい
俺は彼女に賭けた
しかし女は家に寄りつかなかった
あと1マイル
あと1マイル行くだけさ
地獄のようにきつい旅だったが
もう泣いたりする気遣いはない

今時の子供はみんな
彼氏も入れば彼女もいるらしい
ところが俺が愛するあの娘ときたら
こんな状態でいつまでも暮らしてる
あと1マイル
あと1マイル行くだけさ
地獄のようにきつかった旅
もうこれ以上泣く必要はない


One More Mile
(writers: unknown)

It's been a hard devil journey
And I don't have to cry no more
I want you to keep your light a-burnin’
So your man can know the score
One more mile, one more mile to go
It's been a hard devil journey baby
And I don't have to cry no more

I did wrong when I took a gamble
You know I bet my money wrong
I was bettin’ on my baby
And my baby wasn't at home
One more mile, one more mile to go
It's been a hard devil journey baby
And I don't have to cry no more

You know they tell me every school kid,
They say, he often has a mate
But this woman that I'm lovin,
She only lives in this one state
One more mile, one more mile to go
Hard devil journey baby
And I don't have to cry no more


第155回 ランディ・ニューマン Short People

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 ランディ・ニューマンの "Short People"(1977年、全米チャート2位)を訳しました。てつさん、odyssee314さん。私が言っていた歌はこれです。ご存じないかもしれません。まずは YouTube で聴いてみて下さい。

 Randy Newman - Short People (YouTube)

Randy Newman - LITTLE CRIMINALS


「背の低い人々」
(ランディ・ニューマン作)

背の低い人々には理由なんかない
背の低い人々には理由なんかない
背の低い人々には
元々から生きる理由なんかないんだよ

彼らは小さい手しか持たない
目も小さい
嘘八百を並べて歩き回る
鼻も小さいし
歯なんか豆粒みたいだ
あの汚らしい小さな足で
厚底の靴を履くのが奴らのお決まりさ

あのさ 僕は背の低い人に用なんかないんだ
背の低い人たちに用はない
とにかくこの近くには
片時もいてほしくない

背の低い人々はちょうど僕や君たちと同じだね
ことに僕みたいな馬鹿な男とそっくりだ
(フール・サッチ・アズ・アイ)
死を迎えるその日まで 僕らはみんな兄弟さ
ああ素晴らしき世界

背の低い人々は
背の低い人々は
背の低い人々は愛する者を持たない

あいつら赤ん坊みたいな脚をしてるから
立つのもやたらとゆっくりだ
挨拶するのにも
いちいち抱きかかえなくちゃいけないんだぜ
小さな車を乗り回し
すぐにぶーぶーとクラクションを鳴らす
声も小さいから
鼠がチューチュー鳴いてるみたいに聞こえる
薄汚い小さな指と
よこしまな心でもって
君たちをやっつける隙をいつもうかがっている

あのさ 僕は背の低い人に用なんかないんだ
背の低い人たちに用はない
とにかくこの近くには
片時もいてほしくないな


Short People
(Randy Newman)

Short People got no reason
Short People got no reason
Short People got no reason
To live

They got little hands
Little eyes
They walk around
Tellin' great big lies
They got little noses
And tiny little teeth
They wear platform shoes
On their nasty little feet

Well, I don't want no Short People
Don't want no Short People
Don't want no Short People
'Round here

Short People are just the same
As you and I
(A Fool Such as I)
All men are brothers
Until the day they die
(It's a Wonderful World)

Short People got nobody
Short People got nobody
Short People got nobody
To love

They got little baby legs
That stand so low
You got to pick 'em up
Just to say hello
They got little cars
That go beep, beep, beep
They got little voices
Goin' peep, peep, peep
They got grubby little fingers
And dirty little minds
They're gonna get you every time

Well, I don't want no Short People
Don't want no Short People
Don't want no Short People
'Round here

第156回 ポール・マッカートニー Uncle Albert/Admiral Halsey

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 自動車に 自転車のハンドル
 自転車はふたりのために
 悲しみに打ちひしがれた祝祭
 パラシュートに 軍靴
 寝袋はふたりのために
 センチメンタルなジャンボリー
 (ポール・マッカートニー "Junk")

 いい歌ですね。ポール・マッカートニーが最初のソロ・アルバムで発表した "Junk"。だんだん寒くなってきて歌詞に書かれてあるような気持ちになると、私はよくこの歌を歌います。
 ポールが奥さんと共作名義で出したアルバム『ラム』(1971年)から、"Uncle Albert/Admiral Halsey" を訳しました。リンダさんは作詞作曲のクレジットにも名を連ねています。"Junk" はまた別の機会にでも全訳しましょう。

Paul and Linda McCartney - RAM


「アルバートおじさん/ハルセイ提督」
(ポール&リンダ・マッカートニー作)

ほんとうにごめんね、アルバートおじさん
僕らのせいでおじさんの気持ちを傷つけてしまったのなら
ほんとうにごめんなさい
アルバートおじさんには申し訳ないのだけれど
家には誰一人残っていないんだ
雨でも降らせてみるかな
申し訳ないけれど一日何も聞かずに過ごしてしまった
アルバートおじさん
もし何か起こったら必ず電話するからね

ごめんね、アルバートおじさん
今日一日まともなことはひとつもできなかった
ほんとうにごめんね、アルバートおじさん
でも薬缶のお湯が煮立ったら
僕らは簡単に呼び戻されてしまう

両手を広げ 海を越えて行け
頭をもたげ 空を駆け抜けろ

ハルセイ提督から報告を受けた
停泊地が必要なんだという
もしないとすると彼は海に出られない
僕はちょっと考えて お茶を入れて バター・パイを食べた
(バター・パイ?)
うん、バターって溶けないだろ
だからパイの中に入れてみたのさ

両手を広げ 海を越えて行け
頭をもたげ 空を駆け抜けろ

人生を楽しまなきゃ
ジプシーになろう 歩き回ろう
(歩き回らなくちゃ)
足を地面から離して高く上げろ
人生を楽しもう 歩き回ろう

両手を広げ 海を越えて行け
頭をもたげ 空を駆け抜けろ


Uncle Albert/Admiral Halsey
(Paul and Linda McCartney)

We're so sorry, Uncle Albert,
We're so sorry if we caused you any pain.
We're so sorry Uncle Albert,
But there's no one left at home
And I believe I'm gonna rain.
We're so sorry but we haven't heard a thing all day.
We're so sorry, Uncle Albert.
But if anything should happen we’ll be sure to give a ring.

We're so sorry, Uncle Albert,
But we haven't done a bloody thing all day.
We're so sorry, Uncle Albert,
But the kettle’s on the boil
And we're so easily called away

Hands across the water. (Water)
Heads across the sky.
Hands across the water. (Water)
Heads across the sky.

Admiral Halsey notified me,
He had to have a berth or he couldn't get to sea.
I had another look and I had a cup of tea and butter pie.
(Butter Pie?)
The butter wouldn't melt so I put it in the pie, alright

Hands across the water. (Water)
Heads across the sky.
Hands across the water. (Water)
Heads across the sky.

Live a little, be a gypsy, get around.(Get around)
Get your feet up off the ground,
Live a little, get around.
Live a little, be a gypsy, get around.(Get around)
Get your feet up off the ground,
Live a little, get around

Hands across the water. (Water)
Heads across the sky.
Hand across the water. (Water)
Heads across the sky.

第157回 デヴィッド・キャシディ Daydreamer

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 未亡人の母親と5人の兄弟姉妹がバンドを組んで全国各地を演奏旅行するというアメリカのTVドラマが70年代前半にありました。題名を『パートリッジ・ファミリー』というそのドラマのことは、日本で放映されたのが私の生年とほぼ同じこともあって知る由もないのだけれど、長男役のデヴィッド・キャシディが当時女の子の間でたいへんな人気を博したことは耳にしています。
 デヴィッド・キャシディが1973年に発表した名曲 "Daydreamer" を今日は訳しました。

 David Cassidy - Daydreamer

 ところで『パートリッジ・ファミリー』で目を引くのはむしろ、長女を演じたスーザン・デイ(Susan Dey)ですね。この人の可愛さといったら。

David Cassidy

Susan Dey


「デイドリーマー」
(テリー・デンプシー作)

太陽が青空の中で輝き
君の目の中で愛が燃え盛っていたあの4月を僕はよく覚えている
この世に僕を妨げるものはあるはずがないと思った
なぜなら僕はエクスタシーの世界に生きていたから
でも君はもういない

僕は白昼夢を見ているだけの男さ
雨の中を歩きながら
再び目にすることはない虹を追いかけている
たった一人でこの世を生きて行くには
人生はあまりにも美しすぎる
ああ僕はなんて深く追い求めてきたことか
僕だけの人と呼べる人を

夏が終わると
自分がひとりぼっちであることに気が付いた
残されたのは君の思い出だけ
僕はあまりにも君に恋をしていたから
そのときはまったくわからなかった
空想の世界に生きていたんだね
でも君はもういない

僕は白昼夢を見ているだけの男さ
雨の中を歩きながら
再び目にすることはない虹を追いかけている
たった一人でこの世を生きて行くには
人生はあまりにも美しすぎる
僕だけの人と呼べる人が
どうしても必要だ

僕は白昼夢を見ているだけ


Daydreamer
(Terry Dempsey)

I remember April when the sun was in the sky
And love was burning in your eyes
Nothing in the world could bother me
'Cause I was living in a world of ecstasy
But now you're gone

I'm just a Daydreamer
Walking in the rain
Chasin' after rainbows I may never find again
Life is much too beautiful to live it all alone
Oh, how much I need someone to call my very own

Now the summer's over
And I find myself alone
With only memories of you
I was so in love I couldn't see
'Cause I was living in a world of make-believe
But now you're gone

I'm just a Daydreamer
Walking in the rain
Chasing after rainbows I may never find again
Life is much too beautiful to live it all alone
Oh, how much I need someone to call my very own

I'm just a Daydreamer
Walking in the rain
Chasing after rainbows I may never find again
Life is much too beautiful to live it all alone
Oh, how much I need someone to call my very own

I'm just a daydreamer, baby

第158回 フリートウッド・マック I Dont Want to Know

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 ふつうはこんなことはないのですが、今日はできたてほやほやです。フリートウッド・マックの1977年のアルバム『噂』に収録された "I Don't Want to Know"。新年あけましておめでとうございます。皆様どうぞ今年もよろしくお願い申し上げます。
 『噂』に対する不満は二つあって、一つはスティーヴィー・ニックスがメインに歌う曲が少ないことと、一つはスティーヴィー・ニックスの声がオフ気味にミックスされていることです。みんなそうは思わないのかなあ。

Fleetwood Mac - RUMOURS


「私は知りたくなんかない」
(スティーヴィー・ニックス作)

愛が右側通行をやめずに歩き続ける理由なんか
私は別に知りたくない
あなたと愛の間に立たされるなんて真っ平
私はあなたにただ気持ちよく感じてほしいだけ

愛が右側通行をやめずに歩き続ける理由なんか
私は別に知りたくない
あなたと愛の間に立たされるなんて真っ平
私はあなたにただ気持ちよく感じてほしいだけ

ついに真実はこの地に舞い降りた
魂に耳を傾けてご覧なさい
信じたい一心で 大声で泣き叫んでるじゃない
「君を愛している」ですって?
今さら言われても知らないわよ
あなたにどれだけ振り回されて来たことか

ついに真実は語られる
あなたに言わせると 私はどうかしてるみたいね
生き残るために必死だった私は
何一つわからなかったのよ
「君を愛している」ですって?
今さら言われても知らないわ
あなたにずいぶん振り回された来たけれど
やはり私はあなたを求めている

愛が右側通行をやめずに歩き続ける理由なんか
私は別に知りたくない
あなたと愛の間に立たされるなんて真っ平
少し時間をかけましょう

ああ 私は知りたくなんかない


I Don't Want to Know
(Stevie Nicks)

I don't want to know the reasons why
Love keeps right on walking on down the line
I don't want to stand between you and love
Honey, I just want you to feel fine

I don't want to know the reasons why
Love keeps right on walking on down the line
I don't want to stand between you and love
Honey, I just want you to feel fine

Finally baby
The truth has come down now
Take a listen to your spirit
It's crying out loud
Tryin' to believe
Oh you say you love me, but you don't know
You got me rocking and a-reeling
Oh oh yeah uh huh

I don't want to know the reasons why
Love keeps right on walking on down the line
I don't want to stand between you and love
Honey, I just want you to feel fine

I don't want to know the reasons why
Love keeps right on walking on down the line
I don't want to stand between you and love
Honey, I just want you to feel fine

Finally baby
The truth has been told
Now you tell me that I'm crazy
It's nothing that I didn't know
Trying to survive
Oh you say you love me, but you don't know
You got me rocking and a-reeling
Hey I want you oh oh yeah uh huh

I don't want to know the reasons why
Love keeps right on walking on down the line
I don't want to stand between you and love
Honey, take a little time.

Oh I don't want to know

第159回 ウォーレン・ジヴォン Werewolves of London

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 今年の元旦は家で『狼男アメリカン』(1981年)を見ました。冒頭のヨークシャーの荒地をバックパッカーの男二人がそぞろ歩くシーンから、ふしぎな既視感にとらわれました。いろいろと不満の残る映画ですが(例えばラストのクライマックス。恋人も銃火に巻き込まれて死んでしまうとか、主人公が『エクソシスト』のカラス神父のように一瞬人間に戻るとか、もう一工夫あってもいい)、この映画が私の知り合いにとって治癒の役割を果たしたことはよく分かりました。

 『狼男アメリカン』つながりでウォーレン・ジヴォンの "Werewolves of London"(1978年)を訳しました。ちなみにこの歌がなぜロンドンかと言うと、1935年製作のアメリカ映画『倫敦の人狼』を元にしているからです。
 ギターはワディ・ワクテル、ベースとドラムズはフリートウッド・マックのジョン・マクヴィーとミック・フリートウッドが演奏しています。そしてピアノと歌はウォーレン・ジヴォンです。

 Warren Zevon - Werewolves of London (YouTube)

Warren Zevon - EXCITABLE BOY


「ロンドンの狼男たち」
(リロイ・マリネル、ワディ・ワクテル、ウォーレン・ジヴォン作)

手に中華料理のメニューを持って
雨のソーホーの街を歩いている狼男を俺は見た
彼が探しているのは「利口福」って名前の店だ
でっかい皿に盛った五目ビーフ焼きそばにありつきたいと思っている

アーオー
ロンドンの狼男たち
アーオー

アーオー
ロンドンの狼男たち
アーオー

台所のドアの近くで雄叫びを耳にしても
家には入れるんじゃないよ
あのかわいい老女は 昨夜遅くに切り刻まれてしまった
ロンドンの狼男のお出ましだ

アーオー
ロンドンの狼男たち
アーオー

ケントで暴れ回った毛むくじゃらの紳士とは彼のことだ
もれ聞くところによると 近頃じゃメイフェアが狩り場らしい
奴には近づかないことが得策だ
なあジム
お前さんの肺なんざ簡単に切り裂かれるだろうよ
俺としては奴の仕立屋にお目にかかりたいね

アーオー
ロンドンの狼男たち
アーオー

「ロンドンの狼男」に扮したロン・チェイニーが
女王と連れて歩いているのを俺は見た
「ロンドンの狼男」に扮したロン・チェイニー・ジュニアが
女王と連れて歩いているのも俺は見た
また別の狼男はトレーダー・ヴィックスでピナコラーダを飲んでいた
そいつの毛は完璧だったぜ

アーオー
ロンドンの狼男たち
アーオー
血の海だ
アーオー


Werewolves of London
(LeRoy Marinell, Waddy Wachtel, Warren Zevon)

I saw a werewolf with a Chinese menu in his hand
Walking through the streets of Soho in the rain
He was looking for a place called Lee Ho Fook's
Gonna get a big dish of beef chow mein

Aaoooooo!
Werewolves of London!
Aaoooooo!

Aaoooooo!
Werewolves of London!
Aaoooooo!

If you hear him howling around your kitchen door
Better not let him in
Little old lady got mutilated late last night
Werewolves of London again

Asoooooo!
Werewolves of London!
Aaoooooo!

Aaoooooo!
Werewolves of London!
Aaoooooo!

He's the hairy-handed gent who ran amuck in Kent
Lately he's been overheard in Mayfair
Better stay away from him
He'll rip your lungs out, Jim
I'd like to meet his tailor

Aaoooooo!
Werewolves of London!
Aaoooooo!

Aaoooooo!
Werewolves of London!
Aaoooooo!

Well, I saw Lon Chaney walking with the Queen
Doing the Werewolves of London
I saw Lon Chaney, Jr. walking with the Queen
Doing the Werewolves of London
I saw a werewolf drinking a pina colada at Trader Vic's
And his hair was perfect

Aaoooooo!
Werewolves of London!
Aaoooooo!
Draw blood
Aaoooooo!

第160回 ピーター、ポール&マリー With Your Face to the Wind (Harriets Song)

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 ご趣味でフォーク・ソングを歌っておられるという男性の方からリクエストを頂きました。ピーター、ポール&マリーが1990年に発表した "With Your Face to the Wind (Harriet's Song)" です。Y・H様、お待たせ致しました。私の訳文を元に日本語詞を作られるとのことでしたね。不明な点があればお気軽にご連絡下さい。
 以下はご参考までに。


  1. ピーター・ヤーロウはこの歌を51、2歳のときに書きました。60年代は遠い昔のこととなりました。彼が高校を卒業したくらいの年齢の人たちに教え諭しているような感じで訳してみました。
  2. 副題の「Harriet's Song」の「ハリエット」は、おそらく『アンクル・トムの小屋』の作者であるハリエット・ビーチャー・ストウのことを指していると思います。ちなみにストウは女性です。
  3. 二番の歌詞に出てくる「Then take that old sow's ear and turn it into a purse」について。これは「You can't turn a sow's ear into a silk purse.」(豚の耳で絹の財布は作れない)ということわざから来ています。粗悪な材料で良い物は作れない、という意味の言葉です。

Peter, Paul and Mary - FLOWERS AND STONES


「向かい風で進め(ハリエットの歌)」
(ピーター・ヤーロウ作)

(*)向かい風で進め
   君が微笑むのを目にし
   魂は体の中を駆け巡る
   僕は君の勝利を確信している

君はずっと前からこの道を辿って来た
耳をすませば この先待ち受けているものがわかる
僕らがなぜここにいるのか忘れちゃいけないよ
リンゴをまるごと食べろ
芯は吐き出せばいいさ

(* 繰り返し×2)

君は怒りをあらわにしてもいい
罵りたければ罵ればいい
その気持ちを詩にして叫んだっていい
今が最悪だと思うんなら 最悪だと僕に言ってもらっても構わない
でも君はあり合わせのもので何とかやって行くしかない
あの古い豚の耳を財布に変えてしまえ

(* 繰り返し)

雨のように訪れる贈り物
それは植物を生い茂らせ 同様に君を水浸しにする
何が贈られたのかわかるまでに何年もかかることもある
ちょうど君が長い間僕の友だちだったことそのものが
贈り物であったように

この両手は君をなぐさめるためのもの
必要なら この涙でさえいつでも君と共に流すさ
そして共に歌いたがっている心がある
君がついにやり遂げたら そこには喝采が待っているよ

(* 繰り返し×2)

我々が光を見出す前には ときに暗闇がやって来る
戦わずには あの勝利はなし得なかった
家に帰る道は ときに曲がりくねっているものさ
友よ 君が道に踏み迷っているときは
一人きりで行ってはいけないよ

(* 繰り返し×2)


With Your Face to the Wind (Harriet's Song)
(Peter Yarrow)

(*) With your face to the wind, I see you smilin' again
     Spirit's movin' within, I know that you're gonna win

You've been down this road before
Somethin' inside tells you what's in store
Gotta remember what we're all here for
Ya gotta eat up the apple and spit out the core

(* Repeat)

(* Repeat)

You can get angry, you can curse
You can shout it out in rhyme or verse
And you can tell me that it's never been worse
Then take that old sow's ear and turn it into a purse

(* Repeat)

There are gifts that come like the rain
They make the plants grow, they drench you all the same
And there are gifts that took you years to see
Like the gift of the friend that you've been to me

Yes there are hands here to comfort you
And if you need there are tears to cry with you too
And there are hearts that will sing with you
And voices to cheer when you've finally made it through

(* Repeat)

(* Repeat)

Sometimes it takes the dark to let us see the light
You can't have that victory unless you've fought the fight
Sometimes it takes a winding road to lead us home
While you're windin''round my friend just don't go windin''round alone

(* Repeat)

(* Repeat)

ルー・リードが亡くなった

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Lou Reed & Patti Smith

 Utamさんはじめ、訳詞のリクエストを下さった皆様には本当にお詫び申し上げます。ごめんなさい。約8ヶ月ぶりの更新となります。ひとことで言いまして、「時間がとれなくなった、集中できなくなった」というのが遅延の原因です。個人的に訳したものが2つあるにはあるんですが、リクエストのものから手をつけないことにはどうにも前に進めず、そのままにしてあります。

 思い切って書こうと思ったのは、昨日ルー・リードが亡くなったからです。2013年10月27日死去。享年71。ただただ、悲しい。私にとっては先生のような存在でした。昨日日曜日の昼間にたまたま聴いていたのはヴェルヴェット・アンダーグラウンドの "What Goes On" と、スタンダード曲の "September Song" のカヴァー(1985年の正規録音じゃなくて、何かのビデオ・クリップの方)でした。先生、安らかにお眠り下さい。
 "September Song" はこんな歌です。

 五月から十二月までの間はすごく長いけれど
 やがて九月 日がだんだん短くなる
 秋が到来し 木々が紅葉に燃える
 じらしたり相手の出方を待ったりする時間は
 僕らには残されてないんだよ

 時間なんて 瞬く間に消えちまう
 九月、十一月
 この残り少ない貴重な日々を 僕は君と共に過ごしたい
 この貴重な日々 僕は君と共に過ごしたい

 Lou Reed - September Song (YouTube)


第161回 ニール・ヤング Cinnamon Girl

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 言い訳を縷々(るる)述べている暇があったら何か一曲でいもいいから訳せばいいのですが、そうもいかず、ずるずると1年近くが経ちました。順番にやらねば義理がわるいと思ったのが足かせとなったようです。だからリクエストを下さった方々には申し訳ありませんが、「簡単なものから」という基準で再開しようと思います。今日からほんとに再開します。よろしくお願いします。

 先週Aki様から、ニール・ヤングの "Old Man" か "Cinnamon Girl" を訳してほしいというリクエストを頂きました。セカンド・アルバム(1969年)に収められた後者を今回は選びました。"Cinnamon Girl" は、クレイジー・ホースのギタリストであるダニー・ウィッテンとニールのデュエットで歌われる珍しい曲。私は最初に聴いたのが、ブートの "The Loner" と "Down by the River" とのメドレーだったせいか、どちらかと言えば生ギター一本のヴァージョンの方が今でも好きです。ちなみに "Down by the River" は誰に何と言われようとも、CSN&Yの四人でやったときのものが最高ですね。

 昨年12月30日、大滝詠一さんが亡くなりました。心よりお悔やみ申し上げます。
 以前布谷さんが亡くなったときに紹介した YouTube の篤志家の方が、「Go! Go! Niagara」をまた何本か投稿されていました。

 「Go! Go! Niagara」 ゲスト:馬場こずえ(1976年5月18日放送)

 私の好きな大滝さんの魅力がここにつまっています。冒頭でかかる「土曜の夜の恋人に」。なんていい声なんだろう。
 ラジオ・パーソナリティーの馬場こずえさんは、一時期自分の番組でニール・ヤングばっかりをかけていたそうです。

Neil Young


「シナモン・ガール」
(ニール・ヤング作)

シナモン・ガールと一緒に暮らしたい
この先一生シナモン・ガールと一緒にいられたら
さぞや幸せだろうな

写真で写したように鮮やかな夢を追いかける
それは僕だ 夜を走り抜けるのさ
月の光を追う僕たちを あなたはしかと見るだろう
僕のシナモン・ガール

10本の銀色のサックス ベースと弓
ドラマーはほっとひと息 ショーの合間に待つのは
彼のシナモン・ガール

写真で写したように鮮やかな夢を追いかける
それは僕だ 夜を走り抜けるのさ
月の光を追う僕たちを あなたはしかと見るだろう
僕のシナモン・ガール

父さんがお金を送ってくれた
何とかして成功してやる
だからもう一度チャンスが欲しい
わからないか 君の恋人は踊りたがっているぜ
イェー、イェー、イェー


Cinnamon Girl
(Neil Young)

I wanna live with a cinnamon girl
I could be happy the rest of my life
With a cinnamon girl.

A dreamer of pictures I run in the night
You see us together, chasing the moonlight,
My cinnamon girl.

Ten silver saxes, a bass with a bow
The drummer relaxes and waits between shows
For his cinnamon girl.

A dreamer of pictures I run in the night
You see us together, chasing the moonlight,
My cinnamon girl.

Pa sent me money now
I'm gonna make it somehow
I need another chance
You see your baby loves to dance
Yeah...yeah...yeah.

第162回 ヒューイ “ピアノ” スミス Rockin Pneumonia and the Boogie Woogie Flu

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 あるとき家に一人でいたら、かみさんからメールをもらいました。
「名古屋モスバーガーなう。かかってる音楽がすごく変なの。ロッキンニューモニアアンドザブギウギフルーだって」
 携帯で打ったカタカナが正確だったことに妙に感心しつつ、ネットで歌詞をひっぱり出して来て30分ぐらいでさらさらと訳したのを覚えています。それがちょうど1年くらい前。
 ロックの肺炎とブギウギのインフルエンザにかかっちまったよだなんて、今の季節あまり洒落にもなりませんが、間が空くのもいけないのでUPします。
 ジョニー・リヴァースのヴァージョンもいいけれど、ここはやっぱり本家のヒューイ・スミスで聴きたいところです。

 Huey “Piano” Smith – Rockin’ Pneumonia and the Boogie Woogie Flu

Huey


「ロックの肺炎とブギウギのインフルエンザ」
(ヒューイ “ピアノ” スミス、ジョン・ヴィンセント作)

飛び越えたいが そこから落っこちるのは嫌だわな
大声で叫びたいが 建物が小さすぎるわな
若い衆のリズムについに俺もとりこさ
ロックの肺炎とブギウギのインフルエンザにかかっちまっただよ

愛も欲しいが それがすべてじゃない
キスもしたいが のっぽのあの娘にゃ届かない
若い衆のリズムについに俺もとりこさ
ロックの肺炎とブギウギのインフルエンザにかかっちまった

でかい声で叫びたい
お前さん方に知ってもらいたい
ひとっ走りしようにも 俺の足は遅すぎていけねえ
わけえ奴らのリズムが心をわしづかみ
ロックの肺炎とブギウギのインフルエンザにかかっちまった

イェー!

でかい声で叫びたい
お前さん方に知ってもらいたい
ひとっ走りしたいが 俺の足は何しろ遅すぎる
わけえ奴らのリズムが心をわしづかみ
ロックの肺炎とブギウギのインフルエンザにかかっちまった

さあ家まで急げ かわいいあの娘がやって来る
そのうちまた出て行くんだろうけれど
俺はやることなすこと時間がかかり過ぎるんだ
若い衆のリズムについに俺もとりこさ
ロックの肺炎とブギウギのインフルエンザにかかっちまっただよ

叫びたい
叫びたい
叫びたい


Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu
(Huey "Piano" Smith, John Vincent)

I wanna jump but I'm afraid I'll fall
I wanna holler but the joint's too small
Young man rhythm's got a hold of me too
I got a rockin' pneumonia and a boogie woogie flu

Want some lovin', baby, that ain't all
I wanna kiss her but the gal's too tall
Young man rhythm's got a hold of me too
I got a rockin' pneumonia and a boogie woogie flu

I wanna scream, I want you all to know
I would be runnin' but my feet's too slow
Young man rhythm's got a hold of me too
I got a rockin' pneumonia and a boogie woogie flu

Yeah!

Well, all right! Yeah!

I wanna scream, I want you all to know
I would be runnin' but my feet's too slow
Young man rhythm's got a hold of me too
I got a rockin' pneumonia and a boogie woogie flu

Baby comin' now, I'm hurryin' home.
I know she's leavin''cause I'm takin' too long
Young man rhythm's got a hold of me too
I got a rockin' pneumonia and a boogie woogie flu

I wanna scream
I wanna scream
I wanna scream
I wanna scream

『ボブ・ディラン自伝』を読みました

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Bob Dylan Chronicles

 『ボブ・ディラン自伝』(2005年 ソフトバンクパブリッシング)を読了。今日はその感想です。

 孔子にしろキリストにしろ親鸞にしろソクラテスにしろ、各界の神さまたちは世のため人のためにすることに忙しすぎて、「書く」ことなんか顧みなかっただろうと思うのです。だから彼らの思想はみな、お弟子さんがまとめた書物により我々の知るところとなりました。
 神さまは本を書かない。ましてや公表するための回顧録など書くわけがない。
 というのが人類の歴史をざっと見た上での私の印象ですが、ここに来て大きな例外が現れました。それが歌手のボブ・ディランが書いた上記の自伝です。
 煙に巻くことがトレードマークだったようなディランが、ここまで真面目に、克明に、かつ親切に、信条やら思い出話を語ったというのは驚きでした。例えばこんな箇所。

「狭い室内いっぱいにアメリカのレコードがあり、蓄音機もあった。イジーはわたしをその部屋に招きいれてレコードを聞かせてくれた。わたしはその部屋で大量のレコードを聞き、巻いて保管されている大昔のフォークの楽譜まで見た。ひどく込みいった現代世界に、わたしは興味を持てなかった。それは重要でなく、意味がなかった。魅力がなかった。わたしにとって新しくて生き生きしたもの、わたしにとっての現在とは、タイタニック号の沈没やガルヴェストンの大洪水、トンネル掘りのジョン・ヘンリー、ウエストヴァージニア鉄道で男を撃ったジョン・ハーディなどだった。わたしにとっては、そうしたことがいま現実に起こっていることだった。それこそがわたしが思いを馳せるニュースであり、留意して記憶にとどめるべきものだった。」
(P25)

 フォーク界の大先輩であった、のちに恋人同士になる歌手のジョーン・バエズについてはこう書いています。

「レコードから、彼女(注・ジョーン・バエズ)が社会の変革に興味を持っていることはわからなかった。わたしは彼女を幸運な人だと思った。小さなころから彼女に合ったフォークミュージックに接して関心を向け、それを分野を超えた完璧な形で表現するすばらしい技術を身につけたラッキーな人だった。ほかに、そこまでの域に達している者はいなかった。彼女はずっと上のほう、だれも手が届かないところにいた――シーザーの宮殿に住むクレオパトラのように。彼女が歌うとだれもが衝撃を受けた。ジョン・ジェイコブ・ナイルズと同じで、ふつうの人間とは思えなかった。わたしは恐ろしくて、彼女に会いたくなかった。牙をこちらのうなじにつき立てるかもしれないのだ。会いたくはなかったが、やがて会うことになるのはわかっていた。かなり後れをとってはいたが、わたしも同じ方向を目指していた。ジョーンのなかには炎があり、わたしのなかにも同じ炎があった。」
(P316)

 そしてもうひとり。セカンド・アルバム『The Freewheelin' Bob Dylan』(1963年)のジャケットを飾った、デビュー当時の彼の恋人、スージー・ロトロ。彼女に関する記述も面白いです。少々長いですが引用します。

「わたしは、前から少しだけ知っていた黒髪の女性、カーラ・ロトロと話をしていた。カーラはアラン・ローマックスの個人秘書で、そのカーラが自分の妹をわたしに引きあわせた。妹の名はスージーだったが、自分で名前の綴りを「Susie」から「Suze」に変えていた。最初に会ったときから、わたしはスージーから眼が離せなくなった。わたしがそれまで会ったなかで最高にセクシーな女性だった。白い肌と黄金色の髪をした、まじりっけなしのイタリア系だ。突然、まわりの空気が熱くなり、バナナの葉でいっぱいになった気がした。スージーと話を始めると、頭がぐるぐる回りだした。いままではヒュッと音を立てて耳をかすめるだけだったキューピッドの矢が心臓に命中し、その重みがわたしに自分を失わせた。
 (略)つぎの週いっぱい、わたしはスージーのことを考えて過ごした――心から彼女を追いだせずに、どこかで偶然行きあわないものかと願った。初めて恋に落ちた気がして、三十マイル離れていても彼女の気配を感じ、その体を自分の横に感じたいと思った。いま、いますぐにそうしたかった。映画はいつも魔法のような効果を持っていて、建物が東洋の寺に似たタイムズスクエアの映画館は、映画を見るには最高の場所のはずだった。少し前に『クオ・ヴァディス』と『聖衣』を見たばかりだったが、それでも『謎の大陸アトランティス』と『キング・オブ・キングス』を見に行くことにした。気持ちを切り替えて、少しのあいだスージーから離れる必要があった。『キング・オブ・キングス』はリップ・トーンやリタ・ガムが出ていて、ジェフリー・ハンターがキリストを演じていた。スクリーンでは重々しい物語が進行していたが、わたしは入りこむことができなかった。二本目の『謎の大陸アトランティス』も同じようにひどかった。死の光線を放つクリスタル、巨大な深海魚、地震、火山、大津波、そのほかいろいろ。もしかしたら最高におもしろい映画だったのかもしれないが、わかるわけがなかった。まったく集中できなかった。」
(P328)

 彼は、人が恋をしたときの心の動きについてとても素晴らしい正確な描写をします。でもディランはこれを自伝として書いているわけです。You’re so kind!

カズオ・イシグロ『夜想曲集』

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Kazuo Ishiguro - NOCTURNES

 カズオ・イシグロの短篇集『夜想曲集』を昨日読了。
 本国イギリスでは2009年5月に出版され、その年の6月には日本でも早々と訳書が出たのだけれど、ついつい読むのが遅くなった。図書館で借りようと思うとそうなる。しかしすごいね。去年気付いたときには既に予約10件とかなっていた。大変な人気。

 「老歌手」 Crooner
 「降っても晴れても」 Come Rain or Come Shine
 「モールバンヒルズ」 Malvern Hills
 「夜想曲」 Nocturne
 「チェリスト」 Cellists

 以上五作品が本書に収められている。
 すべての短篇が、その何もかもが素晴らしい。

 「夜想曲」のとある場面。主人公に向かって奥さんは整形手術を受けることを強くすすめるのだが、奥さんはこんなふうに言う。
「スティーブ、なぜぼけっとしてるの? すごい申し出よ。いまうんと言っておかないと、六カ月後にも有効って保証はないのよ。だから、うんと言いなさい。自分にご褒美をあげなさい。二、三週間痛いのを我慢すれば、ヒューンって、もう木星の彼方よ」
 木星の彼方に行けるんだ。いいなあ。こういう表現って僕は好きだ。

「青い影」を書いたキース・リード

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 「青い影」 A Whiter Shade of Paleを世に送り出したことで知られるプロコル・ハルムというグループには、専属の作詞家がいました。その人の名をキース・リード Keith Reidといいます。彼はまた、1967年のデビューから1977年の解散、その後の再結成にいたるすべての時代を通じてグループの正式メンバーとして名をつらねています。
(注・「青い影」は後日訳しました。第50回

 インターネット上で公開されている彼のインタビューの中から特に面白いと思われるものを翻訳しました。

Procol Harum

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「ソングライター・インタビューズ プロコル・ハルムのキース・リード」
(『SONGFACTS』 2009年4月2日収録 ・ 前半部分)


――作詞家がバンドの正式メンバーである例をほかにご存じですか?

キース: 初期のキング・クリムゾンにいたピート・シンフィールドがそうだったように思う。今思い浮かぶのはそれくらいだけれど。プロコル・ハルムについて言えば、バンドを一から立ち上げたのはゲイリー(訳注・ゲイリー・ブルッカー)と僕だ。あれは相当変わった立場だったね。作詞家がバンドの結成から何まで責任を負うなんてケースは特に。

――詞は主にどのように書かれますか?

キース: これっていう決めたやり方がひとつでもあればいいと思ってるけどね。やり方は山のように生まれるものなんだよ。僕が最初に書き始めたころはコントロールなんかぜんぜんできやしなかった。ソングライターとしての最初の何年かは、一つの詞を書いてから次の作品に行くまでが心細くて仕方がなかった。それって単にインスピレーションの問題じゃないか、と思った。道理でコントロールなんかできないわけだ。おまけにそれがもう二度とやって来なかったとしたら・・・。その後自分にも状況をコントロールする力がいくらか備わっていることに気がつき始めた。
 いつか必ず、何かが舞い降りて来る。でも来たらそれと真剣に取り組まなくてはいけない。目を見開いてなくてはいけない。耳も開いてなくちゃいけない。君は君を撃ち抜くものをじっと待つこともできる。それが入って来やすいように日頃から練習を積むこともできる。方向性を研ぎ澄ましておくんだ。
 で、僕はわかった。時期というものがあるんだと。みんなはよく「ライターズ・ブロック」(訳注・writer's block 作家が突き当たる壁)を話題にするけれど、僕には時期があるのみだ。毎日と言っていいくらい歌が生まれる「時」を人は経験する。アイデアは浮かぶし何事も調子よく進む。しかし周期そのものを追い求めようとすると、かえって一つの火花も散らさないことがあり得る。だから僕は心配しないことにした。とてもクリエイティブな時期もあれば、泉が枯れてしまう時期もある。
 真夜中にはっと目覚めてアイデアが浮かんだらすぐさま書きとめなければいけない。朝になれば何も覚えちゃいないからさ(笑)。このことを知らない作家はいないと思うよ。ともかくも書いているときに感じるのは、歌は自分のまわりにあるということだ。それはラジオのようなものだ。周波数を合わせれば、どこかでそれは見つかる。

――「青い影」("A Whiter Shade of Pale")はあなたの最初の作品ですか?

キース: いや。最初12か15くらい数があって、「青い影」はそのひとつだった。1枚目のアルバムに入っている曲はその書き始めの頃のものだ。

――「青い影」がのちにあのようなことになることは分かっていましたか?

キース: いや、分からなかった。もちろん興奮はあった。みんなとても気に入っていた。12曲かそこらの曲をリハーサルで演奏したときからそれはとりわけいい曲に思えたよ。ほかにも同じくらい気に入った曲はいくつかあったけど。1枚目のアルバムには「サラダ・デイズ」という強力な競走馬が控えていた。さて最初のセッションで我々は4曲録音した。「青い影」はもっともうまく録れた曲だった。
 当時歌の良し悪しは問題じゃなかった。どれだけレコーディングがうまくいったかということが我々の常なる問題だった。基本的にはライブ録音だったし、優秀なエンジニアに恵まれなかったり、あるいはスタジオがよくなかったりしたら本当にいいレコードは作れなかっただろうからね。ありがたいことに我々がスタジオで録ったものは、最初からすべていい音が鳴っていた。

――あなたが書いた「青い影」には元々さらに歌詞が付いていました。失われた歌詞についてはどう思われましたか。

キース: オリジナルは今あるものの二倍の長さがあった。その頃長い曲が流行となりつつあったんだ。きっかけはディランだったかもしれないしビートルズの「ヘイ・ジュード」だったかもしれない。だから僕は思ったね。よしここはひとつうんと長いやつを書いてやろう、と。だが実際にバンドでやり始めていざレコーディングという段になると、歌詞がまるごとひとつ自然に抜け落ちた。かなり初期の段階で僕らはその部分を捨てたんだ。ちょっと長すぎるかなあとは思っていた。何しろ10分近くあったから。リハーサルで歌詞を3番までにして7分くらいにサイズを縮めた。
 でもプロデューサーは言うんだ。
「なあ、もしラジオにかけてもらいたいと考えているならばだ。もしこの曲を目に見える形で現実にレコードにしたいと考えているならばだ。君らは歌詞(バース)をもうひとつ削ることを考えなくちゃならん」
 僕らはやった。うまくいったみたいだったから、それについて残念に思ったということはなかったよ。悩んだりすることもなかった。

――歌をジグソーパズルのようなものにたとえてらっしゃったのをどこかで読んだことがあります。パズルのピースを集めているのだと。

キース: ああ、それはソングライティングの初期の頃についての言葉だ。インスピレーションであれ何であれ、パズルのピースとして受け取ったものを僕は歌として感じるんだ。この場合で言うと、まず‘Whiter Shade of Pale’というタイトルがひらめいた。そしてこう思った。ここに歌がある、と。ピースがうまくはまるようにパズルを完成させていく。「絵」を見つけられれば、残りのどのピースがどこにはまるかは自ずと分かる。

――それはあなたが詞を連続的に書いていることを意味していますか。だとしたら次に続く言葉は「我々は軽やかにファンダンゴを踊った」(We skipped the light fandango.)であったはずです。それとも構想が先にあって、それとの格闘の中で詞は紡ぎ出されるものなのでしょうか?

キース: 場合によりけりだね。今の例で言えば僕は「我々は軽やかにファンダンゴを踊った」から始めた。タイトルが決まればあとはたいてい一行目から入って行く。物語がどう始まってどう終わるかは僕には分かるから。

――始まりと終わりがあるという意味で、あなたは曲を物語としてとらえているのですか?

キース: そのとおりだ。映画に近いかもしれない。物語を語りながらムードを盛り上げようとするところがね。これはある人間関係についての歌なんだ。人物の性格があって場所があって、旅がある。そこには部屋の音、部屋の感触、部屋の匂いさえもがある。確かに旅は始まっているが、詞の一行一行が助け合いながら集まったものという感じはないな。糸でつながれた感じがある。

――私はいつも「粉屋が話を語った」(the Miller told his tale)が「鏡が話を語った」(the mirror told his tale.)に聞こえていました。女が鏡を見ているときに起こったことなのだとずっと思っていました。

キース: そちらの方がよかったかもしれないね(笑)。

――あなたはおそらくチョーサーか何かをお読みになっていたと思うのですが。

キース: いや、読んでいないよ。みんなすぐに訊きたがるんだよね。「ああ。チョーサーの『粉屋の話』だ」ってみんな思うんだ。僕は生まれてこの方『粉屋の話』は一度も読んだことはない。潜在意識のどこかでもしかしたら知っていたのかもしれない。でもチョーサーから引用した意識がなかったことは確かだ。本当に。

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 ということで次回の訳詞はプロコル・ハルムを予定しています。



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