京都市北区の薬師山病院まで桜花道さん(林さん)を見舞いに行ったのは、三年前の春でした。2009年4月25日。ホスピスに移ったという知らせが入った週の土曜日、朝一番で飛んで行きました。ベッドの脇の机にノートパソコンが置いてあって、前川清と石川さゆりの歌を二人で聴き、ときどきねだると桜花道さんも歌ってくれました。ジム通いの話も記憶に強く残っています。一回で10km走っていたというから、そこに至るまでには相当な努力があったと思います。
病院の近くならここに行くといいですよ、とすすめられたのが「大こう本店」という漬け物屋さんと、あぶり餅で有名な今宮神社でした。雨のなか小一時間かけて到着。そのとき歩きながら聴いていたのがサイモン&ガーファンクルの『Bookends』だったので、今でも "Fakin' It" や "Punky's Dilemma" を耳にすると、私は今宮神社の雨に濡れた石畳や彼の顔を思い出すのです。
桜花道さんはそれから四日後に亡くなりました。
"Fakin' It" は1967年8月にシングルとして発売され、翌年のアルバム『Bookends』に収録されました。言うまでもないことですが歌詞の内容と私の体験に関係はありません。
「うまくやっているふり」
(ポール・サイモン作)
彼女が行くと言えば 彼女は構わず行ってしまう
彼女が留まると言うのなら 彼女はここに留まる
あの子はやりたいことをやるし
自分のやりたいことがわかっている
ところが僕はうまくやっているふりをしてるだけ
よくわかってる
本当は何もできてやしないのは
僕はひと言で言ってとても怪しい男だよ
庭を散歩するだけで もうくたくた
そこらに落ちてるつる草に足をからませながら
ジョークの落ちをひねり出そうとしているのさ
誤魔化してきただけの男だ
本当は何もやれはしない
本当に何も
近づくと危険かって?
いやいや そんなことはない
黙って僕に寄りかかればいいよ
近所の人たちには時間を惜しまず、誠意を尽くして
接しているけれど
実際はその場を取り繕っているだけ
本当は何もやれはしない
取り繕っているという感覚をどうしても振り払えない
この世に生を受ける前は
僕は仕立屋だったに違いない
そら見てごらん
(おはようございます、レイチさん。
今日も一日忙しくなりそうですね?)
仕立屋の顔と手だ
実際僕は仕立屋の顔と手そのものだ
でも僕は
自分がいつも偽って、誤魔化していることを知っている
本当は何もやれはしない
取り繕っているという感覚をどうしても振り払えない
僕は自分が誤魔化していることを知っている
本当は何もできてやしない
Fakin' It
(Paul Simon)
When she goes, she’s gone
If she stays, she stays here
The girl does what she wants to do
She knows what she wants to do
And I know I’m fakin’ it
I’m not really makin’ it
I’m such a dubious soul
And a walk in the garden
Wears me down
Tangled in the fallen vines
Pickin’ up the punch lines
I’ve just been fakin’ it
Not really makin’ it
No, no, no
Is there any danger?
No, no, not really
Just lean on me
Takin’ time to treat
Your friendly neighbors honestly
I’ve just been fakin’ it, fakin’ it
Not really makin’ it
This feeling of fakin’ it
I still haven’t shaken it
Prior to this lifetime
I surely was a tailor
Look at me
(“Good morning, Mr. Leitch
Have you had a busy day?”)
I own the tailor’s face and hands
I am the tailor’s face and hands
I know I’m fakin’ it, fakin’ it
I’m not really makin’ it
This feeling of fakin’ it
I still haven’t shaken it, shaken it
I know I’m fakin’ it
I’m not really makin’ it